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クリプトと経済学の架け橋|Funding the Commons Tokyo開催

こんにちは、Funding the Commons Tokyoの運営メンバーの守です。濱田さんTakaさん関さんらと共にFunding the Commons Tokyo開催に向けて日々取り組んでいます。

僕はいわゆる「Web3(主義信条の都合で、以下クリプトやブロックチェーンと表現させてください笑)」と呼ばれている業界で活動しています。2021年からFracton Venturesというクリプト領域で新しいプロジェクトを始めたいという方々を支援しているチームに所属していて、インキュベーションプログラムやDAO TOKYOという国際カンファレンスや福岡市と共同でFUKUOKA DAO CAMPという2日間のワークショップを開催することを通して、業界のエコシステムの拡大に貢献してきました。Fractonの中でも僕は、公共財への資金提供の仕組みや集団による意思決定方法などといった人間同士の調整の問題をブロックチェーンを使って解決するための研究開発を専門に行っています。研究内容に関しては、こちらのサイトで公開したり、ベルリンや台北で開催されたFunding the Commonsで講演をしたりしています。

Funding the Commons Berlinでのパネルに参加した時の写真

今回は、公共財や再生経済などをテーマとしているFunding the Commons Tokyoが今年の7月24日〜25日に開催するにあたり、開催に懸ける僕の想いや運営メンバーの中でもクリプトネイティブに一番近い人材だと思うのでクリプトの文脈における公共財周辺の話ができたらなと思っています!

Funding the Commons Tokyoについて

「Funding the Commons」は、公共財の持続可能な資金調達と価値整合の新しいモデルを開発することを目的としており、公共財に重きを置いて経済を発展させることで、世界規模での人間の協力を再構築することを目標としています。参照:公式サイト

クリプトとPublic Goods Funding

まず、そもそも僕がクリプトに関心を持った背景について簡単にお話ができたらと思います。僕が大学の頃、将来仕事として長く残り続けるものに携わりたいなと思っていました。当時比較的長く残り続けるのは公共的なインフラや公共政策だと思って官僚を目指していましたが、同じ頃にBitcoinといった暗号資産(仮想通貨)の技術基盤として知られているブロックチェーン技術に出会い、官僚としての仕事よりもブロックチェーンの方が魅力的に思うようになりました。ブロックチェーンという特定の管理者や運営者が存在せずに理論上止まることのないネットワーク(もしくは、そのネットワークを基盤とした仮想コンピュータ)は、より長く残り続けるような世界的なインフラであり、さらに公共性が非常に高いと感じ、ブロックチェーン領域の発展や構築に携わることになって、より長く残り続けるような社会インフラや経済システムを構築ができると考えるようになり、ブロックチェーン業界に携わることを決めて今に至ります。

こういった背景でクリプト業界で活動することになったのですが、僕のようにクリプトと公共財を絡めて活動している人は日本国内においてはそこまで多くない印象です。一方で、クリプトと公共財への資金提供はグローバルでは主流の一つになっている分野になっているので、クリプトと公共財への資金提供がなぜ関連するのか、どのように関わるのかについて、歴史を遡りながら簡単に述べていきます。

クリプトは、世界中でシームレスな取引が可能であり、プログラマブルな設計が可能であるため、しばしばユースケースとして寄付が向いていると言われることがあります。実際、寄付プラットフォームを開発しているクリプトプロジェクトはいくつかありますが、その中でも最も有名なものの1つにGitcoinがあります。Gitcoinは、2018年に提唱されたQuadratic Fundingと呼ばれる新しい公共財への資金供給のモデルを実装し、これまでに合計5000万ドル以上の資金がオープンソースソフトウェア(OSS)を始めとするプロジェクトに支給され、OSS開発者にとっては欠かせないインフラとなっています。

こういった寄付のプラットフォームとしてのクリプトと公共財は関連することは比較的知られているとは思いますが、実はDAO(Decentralized Autonomous Organization)も公共財と密接に関係しているのです。DAOは独自のトレジャリーを持ってて、プロジェクトに資金提供をすることが特徴の1つになっています。Ethereumの研究・開発のために資金提供を行うためのMoloch DAOや、Molochのフレームワークを使用して生まれたMetaCartelがあり、さらにMolochのフレームワークをノーコードで利用できるプラットフォームとしてDAOhausが生まれ、MetaGammaDeltaのような派生プロジェクトが多く生まれ、これらは全て公共性の高いプロジェクトに対して資金を供給するためのインフラが充実していきます。

その後、様々なブロックチェーンを基盤としたプロトコルが独自のトークンを発行したり、プロトコル収益を生み出したりすることで、独自のトレジャリー(資金)を持つようになり(いわゆるDAO化)、自分自身のプロトコルのエコシステムを拡大させることを目的として資金の再分配を行うためにグラントプログラムを実施するようになりました。

補足:DAOに対する誤解 - 調整の実験としてのDAO

前章でクリプトにおける公共財への資金提供に関する情報をまとめましたが、そこにはDAOが大きく関わっていることも紹介しました。一般に、DAOと聞いたら、共通の目的達成のために形成されるコミュニティのイメージが強いかもしれませんが、ここまで見てきたように公共性の高いプロジェクトに対して資金提供を目的とするものが多かったことが歴史的に分かります。さらに、よく誤解されがちなこととして、DAOはコミュニティであるというように言われることがありますが、本質はオンチェーンガバナンス、つまりプログラムによる自動執行であることが革新的なポイントであると理解しています。これは人間同士の調整の問題を解決するための実験であると考えられています。

Molochのイメージ

公共財はビジネス、つまり市場の原理に基づいた自由競争という利己的な振る舞いによって供給することは困難であり、従来は政府が介入することで公共財の供給を補完をしていますが、オンチェーンガバナンスによる人間同士の調整を解決するための実験の目的としては、プログラムを中心に置くことで政府のような中央機関が介入しなくとも多数の人々の利己的な行動によって公共財が適切に供給されることを目指しています。

先述のMolochやMetaCartelはブロックチェーンを基盤とした自動執行の仕組みを採用しており、世界中の人々と非同期で特定の機関への信用なしで調整されます。このオンチェーンガバナンスによる公共財への資金提供は、地球規模の問題にアプローチするための人間の調整の問題を克服するための実験として期待されています。助成金支給を目的としてるMolochやMetaCartelの中心にはコード(スマートコントラクト)が存在し、コードを中心に人々が集まり協力しているため、従来の単なるコミュニティとは異なることがわかるでしょう。

もはやクリプトの問題ではない

現在に至るまで、クリプトプロジェクトはQFを実装したり、スマートコントラクトによるガバナンスを活用した助成金プログラムを実施したりと、様々な人間同士の調整の問題を克服するような実験が日々行われてきました。しかし、これらの実験はひと段落ついたのが現状に思えます。これらの実験を通じて、様々な課題が発見され、それらをどのように克服するのかという壁を直面しているが現状です。具体的な課題の例としては、QFでは偽アカウントを作ることで大きな影響力を持とうとしいたり(シビル攻撃)や結託して大きな影響力持とうとしたり(共謀)、そもそも持続的な資金源が不足したりといったことがあげられます。また、助成金プログラムでは、投票への無関心やコミュニティが非アクティブになるといったことがあり、現にMetaGammaDeltaという女性が創業したプロジェクトへの助成金支給を目的としたDAOはこのような理由から解散に至ったと言われています。そして、一番の課題とされているのは、QFであったとしても、助成金プログラムであったとしても、助成金を行ったことによるインパクトの評価が行われていないことです。インパクト評価は、現在(2024年3月)最も盛んに議論がされている分野の一つですが、これと言った成果をあげられていないのが現状です。

実装はできたは良いものの、このような課題に直面しているのですが、僕個人としてはこれらは必ずしもクリプト特有の問題ではないように感じています。このような考えが確信に変わったのは、2022年10月にコロンビアの首都ボゴタでEthereum Foundationが主催のEthereumの最大のカンファレンスであるDevconへの参加です。このDevconでは、Ethereumを中心とした最新の研究内容やプロジェクトに関するプレゼンやディスカッションが行われており、僕の関心領域であったPublic Goods Fundingについても議論がなされていましたが、ここで議論されていたテーマはもはやブロックチェーンに関する知識を必要としない内容も盛んに議論されていました。当時話されていた話題は、プロジェクトがインパクトがあったことを証明するための証や自分が唯一無二であることを示すようなIDなどがあり、これらはクリプトの範疇には収まらない話であり、さらにDevconの登壇者としてUNICEFのクリプト基金の担当者が参加しており、クリプトの進展にはクリプト外の知見が必要不可欠になると確信しました。実際、2024年2月に公開されたGitcoin 2.0のホワイトペーパー内で、UNICEFや米国がん協会などの伝統的な業界とのコラボレーションをしていることも言及しており、クリプトプロジェクトのクリプト外の領域とのコラボレーションの流れは止まることはないでしょう。

コロンビアから帰国後、クリプト以外の領域も中心に見るように心掛けるようになりました。今クリプトが直面している課題はクリプトだけでは解決されないとは分かってはいるものの、このようなテクノロジー、経済学、市民参加、コモンズなどを横断的に跨っている領域をどのように言い表すべきか難しい問題でした。しかし、クリプト外で公共財への資金供給について取り組んでいる方々との共通言語の一つが「Funding the Commons」でした。僕はFunding the Commonsという共通言語を介して、クリプト外で活動されている方と交流を重ねて、Funding the Commons Tokyoの運営メンバーとの出会にも繋がりました。

Devcon BogotaでのUNICEFによるセッション

クリプトの外側へ「Funding the Commons」という共通言語

クリプトの領域では、スマートコントラクトによって実装することができるため、資金提供のメカニズムを具体的な形として昇華させることが比較的盛んであり、強みであると感じています。しかし、クリプトの人々が直面する課題としては、実装上の問題というよりも、経済学的な問題や社会学的な問題の側面の方が強いように思えます。コードによって実装できるとは言っても、実装する上での知見が不足していては本末転倒でしょう。GitcoinがQFを実装したのも経済学の研究の成果を基に形にしたので、ブロックチェーンという斬新なテクノロジーでは不完全であり、蓄積された知の下地が必要となるでしょう。実際に僕自身も最近、アート分野で起業をして、クリプトの外側で活動することでクリプト内外において新しい刺激をもたらそうと活動しています。

個人的にFunding the Commonsは参加者としても登壇者としても参加したことがありますが、Funding the Commonsは今回のFunding the Commons Tokyo運営チームの方々と知り合うきっかけの一つとなったカンファレンスであり、クリプトの領域でPublic Goods Fundingに取り組んでいる方々とクリプト外の経済学者や公共セクターで活動されている方々とを繋ぐ場でありたいと思っています。Funding the CommonsはPublic Goods Fundingに関して活動をしている人たちの共通言語となり、クリプトに精通していない方々にとっては様々な実装例について知る機会であり、クリプト界隈の方々は下地になるような知見を知る機会となり、互いの専門性を理解し合い、互いに補完し合うような関係になれる場であると思います。

そして、Funding the Commons Tokyoの運営メンバーで最もクリプトネイティブなのは僕であると思うので、クリプトで活動している人たちにとって良い学びの場になると同時に、実装例を紹介することで互いに刺激を与え合えるような機会にできたらと思っています。本気でクリプトによって公共財に貢献するならば、積極的にクリプトの外側の世界に足を踏み入れていきましょう!

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