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書道が認知症に効果あり?!

アートセラピーのエビデンス

2023年に発表されたネットワークメタ分析によると、認知症に対するアートセラピーのうち認知機能と生活の質の向上においては書道療法が、興奮行動の減少には園芸療法が効果的だったと報告されています。

Summary According to a network meta-analysis published in 2023, among art therapies for dementia, calligraphy therapy was effective in improving cognitive function and quality of life, while horticultural therapy was effective in reducing agitation.

これまで認知症に対するアートの効果を探ってきましたが、AIサーチで興味深い研究を見つけました。

せっかくなので、ここにまとめておきます。

いろいろなアートセラピーを比較したランダム化比較試験のネットワークメタ分析(Liu, 2023)です。

39研究を集めたネットワークメタ分析

参加者: 認知症を診断された人(2,801人)

介入: 書道療法、回想療法、音楽療法、園芸療法、読書療法、ペインティング療法

比較: 通常ケア

アウトカム: 認知機能、日常生活の活動、うつ病、不安、興奮行動、生活の質

研究デザイン: 39のランダム化比較試験(RCT)を収集統合したネットワークメタ分析

結果:

  • 書道療法は、通常のケアと比較して認知機能を有意に改善しました(MD = 4.39, 95% CI 0.57-9.41)

  • 園芸療法は、通常のケアと比較して興奮行動を有意に減少させました(MD = -31.34, 95% CI -41.60- -20.90)

  • 書道療法は、通常のケアと比較して生活の質を有意に向上させました(MD = 9.00, 95% CI 0.38-17.58)

結果のまとめ(Liu, 2023)

結果を引用して示します。数値は平均差(MD)と95%信頼区間(CI)。

Figure by Liu, used under CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

6つのアウトカムについて、異なるアートセラピーがどのように有効かを示しています。特に書道療法と園芸療法が顕著な効果を示していることが分かります。

書道と園芸に効果

アートセラピーのうち、書道療法は認知機能と生活の質の向上において最も効果的で、園芸療法は興奮行動の減少に最も効果的でした。

医療者は、認知症患者の認知機能、興奮行動、QOLを改善するために、これらの芸術療法を適用することも考慮すべきでしょう。

認知症に対するアートセラピーのエビデンス

  • 書道療法は認知機能と生活の質が向上するとの研究があります。

  • 園芸療法は興奮行動の減少するとの研究があります。

書道は本当に効果があるの?

さて、書道療法がそれほど大きな効果がみられるとは、あまり聞いたことがありませんでした。そこで、慎重に引用文献をたどってみることにしました。

書道が認知機能を改善するという文献は、以下のものが引用されていました。

18. Yuan LX. Effect of arithmetic or drawing writing on communication and cognitive function in patients with mild to moderate dementia. Guangzhou Medical University: Master Thesis, 2018. (in Chinese)

この文献(Yuan, 2018)は見つけられませんでした。

個々のRCTについての情報は本文には記載がなく、Supplementary materialに情報が記載されています。

Supplementary material (Liu, 2023)

3: Characteristics of 39 studies included in this study

Table 1. Characteristics of 39 studies included in this study

Author, year

Age (E/C)

Country

Male (%)

Sample size (E/C)

Diagnose

Interventions

Therapy duration

Outcome and measurement

Yuan, 2018

78.56±7.73/ 80.20±6.83

China

38.7

15/15

AD/VD

E: Calligraphy therapy

C: Usual care

12 weeks

Cognitive function: MMSE

Quality of life: QoL-AD

この文献(Yuan, 2018)は各群15人、12週間の小規模研究だということがわかりました。

この論文のタイトルで検索したところ、似たような著者名・タイトル名の研究がつい最近発表されているのを見つけました。

算数と描画筆記には効果あり

このクラスターランダム化比較試験(Yuan, 2024)を見ておきましょう。

軽度から中等度の認知症患者に対して算数および描画筆記を行うと、コミュニケーション能力とQOLの向上に有効であり、認知機能の低下を遅らせる可能性があることがわかりました。

さらに詳しく(Yuan, 2024)

参加者: 軽度から中等度の認知症を診断された患者(45人)

介入:

  • 算数群:足し算と引き算の公式を学び、20から100までの正解を記述

  • 描画筆記群:指定された対象物の名前を記載し、描画し、文章を書く

比較: 基本的な日常ケアのみ

アウトカム:

  • コミュニケーション能力(Functional Assessment of Communication Skills (SFACS))

  • 生活の質(Quality of Life—Alzheimer's Disease (QoL-AD) scale)

  • 認知機能(MMSEスコア)

研究デザイン: クラスターランダム化比較試験

結果:

- 算数群: コミュニケーション能力と生活の質が改善し、MMSEスコアが14.77から17.31へ有意に改善(P < .01)

- 描画筆記群: コミュニケーション能力と生活の質が改善し、MMSEスコアは14.27から14.53へと僅かに向上(P > .05)

- 対照群: MMSEスコアが13.73から10.13へ有意に低下(P < .01)

Figure by Yuan, used under CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

描画筆記群は「指定された対象物の名前を記載し、描画し、文章を書く」という内容になっています。

具体的には、以下のとおりです。

さらに詳しく(描画筆記群)

セラピストとアシスタントによって、マルチメディアルームでグループに対して介入が行われました。

ステップ1: 導入

セラピストは参加者に一般的な内容を紹介し、その後、時間と場所の方向性に関する演習を行いました。

ステップ2: 名前付け

参加者は、異なる果物や野菜など、同じ種類の対象物に名前をつけるように導かれました。

ステップ3: 識別

参加者は、対象物の分類、サイズ、色、硬さ、味、調理方法、生育期間などの特徴を自分の言葉で説明するように導かれました。

ステップ4: 描画と記述

セラピストが最初に対象物を描画し、スクリーン上のアイテムについて説明しました。その間、参加者はホワイトボードに描画と言葉をコピーしました。

ステップ5: まとめ

トレーニングセッションの終わりに、セラピストはトレーニング結果を評価し、その肯定的な影響を強調しました。その後、参加者はすべての対象物を思い出し、関連する説明を読むよう導かれました。最後に、セラピストは次のトレーニングセッションのスケジュールを立てました。

ホワイトボードに描画しており、いわゆる書道ではありませんでした。

QOLについては、かなり大きな差が確認できます。

認知機能については、算数だけではなく描画筆記でも有益と判断できそうな差がありそうです。

どちらかといえば、訓練によって改善するという結論になりそうですが、認知機能だけではなく、コミュニケーションやQOLも改善している、という点が興味深いですね。

認知症に対する非薬物療法のエビデンス

  • 軽度から中等度の認知症患者に対して算数および描画筆記を行うと、コミュニケーション能力とQOLが向上します。

  • さらに、認知機能の低下を遅らせる可能性があることがわかりました。

参考文献

Liu Q, Wang F, Tan L, Liu L, Cheng H, Hu X. Comparative efficacy of various art therapies for patients with dementia: A network meta-analysis of randomized controlled trials. Front Psychiatry. 2023 Jan 25;14:1072066. doi: 10.3389/fpsyt.2023.1072066. PMID: 36761861; PMCID: PMC9905634.

Yuan L, Ye J, Wang W, et al. Research of arithmetic and drawing writing in improving communication and cognitive function in patients with mild-to-moderate dementia: A cluster randomized controlled trial. Alpha Psychiatry. 2024;25(2):262-268.

※情報収集・文章作成・画像生成にAIを活用しています。

■ 編集長
byc (bycomet) Editor, Director & Physician
2007年からブログやツイッターで活動を開始。ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」(2015-2023年、有料会員数10,886人月)、オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(2018-2022年、累積登録40人)を編集長として運営。2022年にはオンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数120人)を運営。
地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。

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あとがき

ネットワークメタ分析の考察から

さて、本題のネットワークメタ分析(Liu, 2023)に戻りましょう。

論文の考察を確認しておきます。

直接比較の結果、書道療法は認知症患者の認知機能とQOLの改善において通常のケアよりも優れており、回想療法は通常のケアと比較して認知機能を有意に改善することが示された。同様に、他の研究(20, 21)でも、書道療法は認知症患者の認知機能とQOLを高めるのに有効であることが示されており、メタアナリシスでは、中国の書道療法は精神神経症状を持つ患者の認知機能を改善するのに役立つことが示されている(22)。これは、書道療法が視覚的・空間的な文字のパターニングを伴う芸術療法の一分野であることから、患者が書道の動作を完成させるために集中し、身体をコントロールすることを助け、認知機能、身体的リラックス、情緒的安定、QOLを促進する可能性があるためと考えられる。Pérez-Sáezら(23)は、回想療法が認知症患者の認知機能に、通常のケアと比較して有益な効果をもたらす可能性があることを支持している。回想療法は、記憶や想起の能力を鍛えるだけでなく、語る過程で言語機能や社会的相互作用能力を向上させ、認知症患者の認知機能を改善する。さらに、ベイズランダム効果モデルに基づくネットワークメタ分析により、書道療法は認知機能にとって最良の芸術療法であることが示された。回想療法は2位、音楽療法は3位であった。この結果は、回想療法や音楽療法に比べ、書道療法は身体的、精神的、個人的なプロセスを統合し、視覚的パフォーマンス、空間能力、認知計画を統合することができるため、患者がより長い期間認知機能を維持することができるためと考えられる(24)。

書道について考察された部分の日本語訳です。

この引用文献をたどってみたところ、誤りではないかと思われる部分がありましたので、指摘しておきます。

20はリンク切れ

21 Chu KY, Huang CY, Ouyang WC. Does Chinese calligraphy therapy reduce neuropsychiatric symptoms: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2018 Mar 7;18(1):62. doi: 10.1186/s12888-018-1611-4. PMID: 29514660; PMCID: PMC5842540.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29514660/
書道が精神神経症状を改善するか検討したメタ分析

22 回想療法の論文

23 Kao H Sr, Zhu L, Chao AA, Chen HY, Liu IC, Zhang M. Calligraphy and meditation for stress reduction: an experimental comparison. Psychol Res Behav Manag. 2014 Feb 13;7:47-52. doi: 10.2147/PRBM.S55743. PMID: 24611024; PMCID: PMC3928403.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24611024/
書道と瞑想がストレス軽減するという前後比較研究

おそらく、引用文献の順番が間違っているのでしょう。

21→23
22→21
23→22

と読み替えると、内容が整合します。

論文の内容や査読は大丈夫かな・・・と心配になりますが。(この程度の誤りはよくあることです。)

引用されたメタ分析

念のため、引用されているメタ分析(Chu, 2018)に「書道療法は認知症患者の認知機能とQOLを高めるのに有効であることが示されており」に該当する記載があるか、確かめておきます。

さらに詳しく(Chu, 2018)

参加者: この研究には、965名の精神病患者、579名の不安症患者、456名のうつ病患者、55名の認知機能障害患者、148名のニューロフィードバック患者、および287名の統合失調症患者が含まれました。

介入: 中国書道療法

比較: 一般的なケア、健康教育、または無介入

アウトカム: 精神病、不安、うつ病、認知機能、ニューロフィードバック、統合失調症の正と負の症状の改善

研究デザイン: ランダム化比較試験(RCT)および対照臨床試験(CCT)のメタ分析

結果:

- 精神病の症状が有意に減少(10研究、965名、標準化平均差 [SMD] = -0.17, 95% 信頼区間 [CI] [-0.30, -0.40], Z = 2.60, p < 0.01)

- 不安症状が有意に減少(9研究、579名、SMD = -0.78, 95% CI [-0.95, -0.61], Z = 8.98, p < 0.001)

- うつ病症状が有意に減少(7研究、456名、SMD = -0.69, 95% CI [-0.88, -0.50], Z = 7.11, p < 0.001)

- 認知機能が有意に改善(2研究、55名、平均差 [MD] = 2.17, 95% CI [-0.03, 4.38], Z = 1.93, p = 0.05)

- ニューロフィードバックが有意に改善(3研究、148名、SMD = -1.09, 95% CI [-1.44, -0.73], Z = 6.01, p < 0.001)

- 統合失調症の正の精神病症状が有意に減少(4研究、287名、SMD = -0.35, 95% CI [-0.59, -0.12], Z = 2.96, p = 0.003)

- 統合失調症の負の症状が有意に減少(4研究、276名、SMD = -1.39, 95% CI [-1.65, -1.12], Z = 10.23, p < 0.001)

結果のまとめ:

ぼくが知りたいのは、書道療法が認知症患者の認知機能を高めるか、という点になります。

結果の図を引用します。

Fig. 5 Forest plot of comparison: Experimental (Chinese calligraphy therapy, etc.) versus Control. Outcome: index of cognitive function
Figure by Chu, used under CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

差があるようには見えません・・・。

byc

参考文献

Chu KY, Huang CY, Ouyang WC. Does Chinese calligraphy therapy reduce neuropsychiatric symptoms: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2018 Mar 7;18(1):62. doi: 10.1186/s12888-018-1611-4. PMID: 29514660; PMCID: PMC5842540.

Kao H Sr, Zhu L, Chao AA, Chen HY, Liu IC, Zhang M. Calligraphy and meditation for stress reduction: an experimental comparison. Psychol Res Behav Manag. 2014 Feb 13;7:47-52. doi: 10.2147/PRBM.S55743. PMID: 24611024; PMCID: PMC3928403.

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