エビデンスに基づく医療(EBM)は、適切な根拠と臨床経験、患者価値を統合し、医療アウトカム改善に寄与しうる。しかし、AI時代には方法論・倫理課題が顕在化し、適用には慎重な検証が必要です。
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近年、エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine, EBM)は、臨床現場での医療意思決定を支える基本的な枠組みとして確立されてきました。EBMは、信頼できる研究結果(科学的根拠)、医師の臨床経験、そして患者の価値観や好みを統合することで、より良い医療を実践し、アウトカム(転帰)の改善を目指すものです。
一方で、技術革新や社会的背景の変化が進む中、EBMそのものや新たに台頭する人工知能(AI)との統合活用が、医療アウトカムにどのような影響を与えるのか、再検討が求められています。
本記事では、ここ数年の研究動向を踏まえ、EBMがアウトカム改善に寄与する根拠や課題、さらにAI時代のEBM活用について概説します。
EBMがアウトカム改善に貢献する可能性
EBMは1990年代以降に提唱され、臨床ガイドラインやシステマティックレビューを通じて標準的な診療プロセスを確立し、質の高い医療提供を目指してきました。この枠組みは、臨床試験や観察研究から得られたデータを整理・評価し、患者ケアに活かすことで、治療効果や安全性の向上、再発予防、患者満足度向上などを実現する可能性があるとされています。
DjulbegovicとGuyatt(2017)は、EBMが過去25年で大きく進展し、より信頼できる研究エビデンスに基づく医療が質改善と患者転帰向上に寄与していることを指摘しています。
慢性疾患管理や転倒予防をはじめとした領域で、エビデンスに基づくガイドラインや介入が有効性を示してきた例もあります。たとえば、Triccoら(2017)は高齢者の転倒予防を対象とするネットワークメタアナリシスで、エビデンスに基づく多因子介入が実際の転倒率や有害事象を軽減する可能性を示しました。
このような結果は、適切な根拠に基づく診療行為が、個別の患者アウトカム改善に結びつくことを示唆します。
課題:エビデンスの質と限界
一方で、EBMが常にアウトカム改善へ直結するわけではない点にも注意が必要です。エビデンスの質や適用範囲には限界があり、不十分な研究デザインや偏りを含むエビデンスに基づいて決定を下せば、期待する改善効果を得られない可能性があります。
Wynantsら(2020)の研究は、COVID-19に関する診断・予後予測モデルが短期間で乱造された結果、その多くがバイアスや不適切な報告を含み、臨床的有用性に乏しいことを指摘しています。これは、エビデンス利用時にはその質を厳しく評価し、適切な批判的吟味を行う必要があることを強調しています。
また、EBMは患者中心のケアを重視しますが、標準化されたガイドラインが常に個々人の価値観や生活状況に合致するとは限りません。Greenhalghら(2015)の批判的考察以降、近年はEBMをEvidence-Informed Decision Making(EIDM)へと拡張し、社会的・文化的文脈を踏まえる必要性が指摘されています。
こうした新たな視点は、EBMがより柔軟で包括的なフレームワークとして進化するために不可欠です。
AIとの統合活用と新たな課題
近年、AI技術が画像診断や予後予測モデル構築など、多くの領域で医療をサポートするようになりました。EBMとAIを統合することで、最新エビデンスを瞬時に統合した意思決定支援や、個別化医療の実現が期待できます。
しかし、この統合には新たな方法論的・倫理的課題が浮上しています。
Morleyら(2020)は、医療AIに関する倫理的課題としてプライバシーやデータ保護、公平性・公正性、説明責任と透明性、患者自主性などの問題をマッピングしています。AIモデルは開発過程でのバイアスやデータ不均衡により、特定の集団に不利益をもたらす可能性があり、従来のEBM枠組みでは十分カバーできない新たな懸念が生じます。
また、AIによる予測モデルは「ブラックボックス」化しやすく、医師や患者がその根拠を理解しにくい場合、共有意思決定の困難化や信頼性低下を招きかねません(Mittelstadt, 2019)。
こうした背景から、WHO(2021)はAI活用時の倫理とガバナンスに関するガイダンスを提示し、透明性、公平性、説明責任、人的コントロール確保を求めています。これらの原則を組み込み、EBMの評価基準やガイドラインをAI対応へと拡張することが、信頼できるアウトカム改善につながるでしょう。
今後の展望
EBMは、医療現場での質向上とアウトカム改善を目的に発展してきた有力なフレームワークです。質の高い研究エビデンスを厳密に吟味し、患者中心の視点を統合することで、EBMは多くの領域で改善効果を発揮してきました。しかし、その恩恵を十分に享受するには、エビデンスの質や適用方法への継続的な監視、方法論的改善が欠かせません。
さらに、AI技術の統合にあたっては、方法論的・倫理的課題への対処が不可欠です。具体的には、AIモデル評価の新たな基準策定、バイアス低減、説明可能性向上、そして患者や臨床家を含む多様なステークホルダー間での対話が求められます。こうした取り組みは、単に技術革新を追いかけるだけでなく、EBMが志向する「より良い医療」の実現に不可欠なステップと言えるでしょう。
結論として、EBMはアウトカム改善に寄与する強力な枠組みであり続けていますが、その実効性を高めるためには、エビデンスの質保証、患者中心ケア、社会的文脈、そしてAIとの統合に伴う新たな方法論・倫理的課題への対応が求められます。これらを適切に乗り越えることで、EBMは今後も医療実践を支え、患者アウトカム改善への道筋を示し続けるでしょう。
参考文献
Djulbegovic B, Guyatt GH. Progress in evidence-based medicine: a quarter century on. Lancet. 2017;389(10067):415-423. doi:10.1016/S0140-6736(16)31592-6
Greenhalgh T, Snow R, Ryan S, Rees S, Salisbury H. Six ‘biases’ against patients and carers in evidence-based medicine. BMC Med. 2015;13:200. doi:10.1186/s12916-015-0437-x
Mittelstadt BD. Principles alone cannot guarantee ethical AI. Nat Mach Intell. 2019;1:501–507. doi:10.1038/s42256-019-0104-5
Morley J, Machado CCV, Burr C, et al. The ethics of AI in health care: A mapping review. Soc Sci Med. 2020;260:113172. doi:10.1016/j.socscimed.2020.113172
Tricco AC, Ashoor HM, Soobiah C, et al. Comparative effectiveness of interventions for preventing falls in older adults: a systematic review and network meta-analysis. BMJ. 2017;358:j408. doi:10.1136/bmj.j408
WHO. Ethics & governance of artificial intelligence for health: WHO guidance. World Health Organization; 2021.
Wynants L, Van Calster B, Collins GS, et al. Prediction models for diagnosis and prognosis of covid-19 infection: systematic review and critical appraisal. BMJ. 2020;369:m1328. doi:10.1136/bmj.m1328
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EBMの実践には、新たな課題も指摘されているようです。
特に、AIの活用によってEBMの進化が期待されますが、方法論的・倫理的課題もありそうです。
今回はAI活用にも焦点を当てて記事を作成しました。
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2007年 「地域医療日誌」ブログ・ツイッターで活動を開始。2015年 ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」を創刊(有料会員数 10,886人月)、2018年 オンラインコミュニティ「地域医療編集室」を運営(登録会員数 40人)。
2022年からオンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数 120人)を開設し、地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。
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