「ヒートショック」再考

科学的根拠の曖昧さと課題

「ヒートショック」は広く浸透しているものの、科学的裏付けは不十分です。現状は公衆衛生上の便宜的用語にとどまり、より厳密な因果関係の解明およびエビデンスの蓄積が求められます。

この記事はAI・医師共創型コンテンツ(APCC)です。

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はじめに

冬場になると「ヒートショック」という言葉がメディアなどで取り上げられますよね。たとえば、暖かいリビングから寒い脱衣所、そして熱いお風呂へと移動する際の温度差が血圧を大きく変動させ、心筋梗塞や脳出血、溺死を引き起こす――そんなイメージで紹介されることが多いようです(原・高木・池上, 2010; 山本, 2017)。

厚生労働省(2018)も入浴時の事故防止策を示しており、それを見ると「ヒートショック」という用語が、あたかも確立したリスク要因であるかのような印象を受けるかもしれません。でも、その根拠は固まっているのでしょうか?

この記事では、「ヒートショック」なる現象が、どの程度科学的根拠をもって語られているのかを改めて考えてみます。

「ヒートショック」は国際的な共通用語じゃない?

実は、「ヒートショック」は国際的に定義された医学用語ではありません。海外の研究を見ても、入浴時の急激な温度変化によるリスクを「heat shock」として捉える定義は定着していないようです。「heat shock」という英語表現は、主に熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein)の研究領域で使われるため、まったく別物と考えたほうがいいでしょう。

Abeら(2020)の研究では、温浴が自律神経活動や血行動態に影響を与える可能性が示唆されていますが、そこにも「ヒートショック」という表現は登場していません。つまり、「ヒートショック」は日本独自の生活習慣や文化背景から生まれた便利な呼び方であって、国際的な通用語ではないのです。

科学的根拠は充分?国際比較や因果関係は不透明

入浴中の死亡率が冬に増加する傾向は、たしかに国内で報告されています(山本, 2017)。しかし、「温度差が原因で死亡率が増える」という因果関係を、厳密な研究デザインで証明したデータはまだ不十分です。

海外には寒冷期に心筋梗塞が増えるという報告(Spencer et al., 1998)や、気温低下による脳卒中リスク上昇(Hong et al., 2003)を示す研究はあります。でも、これらはあくまで天候・季節性と心血管リスクや脳血管リスクの関連であって、入浴や室内移動時の温度差にフォーカスしていません。また、人によっては基礎疾患、高齢化、飲酒など、さまざまな要素が絡み合うため、「温度差だけ」のせいで死亡リスクが高まると断言するにはハードルが高いのです。

公衆衛生政策の狙いと科学的厳密性の違い

厚生労働省(2018)の指針は、入浴中の事故を減らすための公衆衛生的なアドバイスです。室温を整える、入浴時間を短くするなどの対策は、リスク低減のために有効かもしれません。

しかし、これはあくまで「念のため」行う予防策であって、「ヒートショック」が科学的に証明された独立した概念であることを示すものではありません。公衆衛生政策では、必ずしも因果関係が完全に実証されなくても、疑いがある段階でリスク低減策を呼びかけることが容認されるのです。

死因特定はできるの?法医学的な問題

個別の死亡例で「ヒートショック」を直接の死因として特定することは不可能です。解剖してわかるのは、心筋梗塞や脳出血、溺死といった具体的な原因であり、「ヒートショック」はあくまで温度差が関わったかもしれないという推測的なフレームワークに過ぎません(原・高木・池上, 2010)。

つまり、「これはヒートショックによる死だ!」と証明することは現状できないわけです。

これからの課題

「ヒートショック」をもし科学的に確立させたいのであれば、国際的な比較研究や、より細かい生理学的モニタリング、前向き研究などで因果関係を裏付ける必要があります。Abeら(2020)のような研究が増えれば、温度差とリスク増加を結びつけるメカニズムももう少しはっきりするかもしれません。

しかし、現時点では「ヒートショック」はあくまで便利なリスク概念の一つという段階にとどまっています。社会的な啓発には役立つかもしれませんが、科学的事実として確立しているとは言いがたい状況です。

まとめ

「ヒートショック」という言葉は日本で広く知られていますが、科学的に厳密な根拠がそろった独立した医学用語ではありません。厚生労働省の指針は公衆衛生上の対策としては有益ですが、それをもって「ヒートショック」という現象が確立された科学的事実と見ることは早計です。

今後、より明確なエビデンスが出てくる可能性はありますが、現段階では「ヒートショック」は便利な目安程度の存在にとどまっている、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

参考文献

原晋一郎, 高木健, 池上恒男(2010). 「入浴関連突然死発生メカニズム解明への試み」『日本温泉気候物理医学会雑誌』73(2), 92-105.

山本晃士(2017). 「入浴関連死亡の疫学」『日本温泉気候物理医学会雑誌』80(2), 110-118.

厚生労働省(2018). 「浴槽内での溺死等の防止に向けて」報告書. https://www.mhlw.go.jp/

Abe, K. et al. (2020). Effects of hot bath immersion on autonomic activity and hemodynamics: The therapeutic potential of heat therapy. International Journal of Biometeorology, 64, 1893–1901.

Hong YC, Rha JH, Lee JT, Ha EH, Kwon HJ, Kim H. (2003). Ischemic stroke associated with decrease in temperature. Epidemiology, 14(4):473–8.

Spencer FA, Goldberg RJ, Becker RC, Gore JM. (1998). Seasonal distribution of acute myocardial infarction in the second National Registry of Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol, 31(6):1226–33.

👨‍⚕Physician

「ヒートショック」という概念が語られてきましたが、かつてないほど注目されています。しかし、室温差が死亡のリスクになるのかについて、明確が結論が出ていないはずです。

根拠のない「ヒートショック」リスク啓発が、ひとり歩きしていないでしょうか。

レガシーメディアは迷走しています。まるでフェイクニュースの様相に。何を根拠に報道してるのか、不審な点が目立ちます。

情報に対しては、常に批判的吟味の姿勢を持つべきでしょう。

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編集長 byc
2007年 「地域医療日誌」ブログ・ツイッターで活動を開始。2015年 ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」を創刊(有料会員数 10,886人月)、2018年 オンラインコミュニティ「地域医療編集室」を運営(登録会員数 40人)。
2022年からオンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数 120人)を開設し、地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。

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