患者のケアについて、医療と地域を橋渡しをする社会的処方リンクワーカーのエビデンスが2022年に発表されています。効果がみられていないため、本格的導入前にさらなる検証が必要でしょう。
Summary Evidence of social prescribing link workers bridging healthcare and the community for patient care has been published in 2022. Further validation will be needed before full-scale implementation, as effectiveness has not been seen.
リンクワーカーとは
リンクワーカーという言葉を、聞いたことがありますか?
リンクワーカーとは、患者のケアについて、医師やケアマネージャーなどの専門職と地域資源との橋渡しをする役割を担う専門家のことです。
医療の文脈では、医療機関と地域社会資源(福祉・レクリエーション・教育)との間の「つながり」を強化する、医療と地域をリンクする専門家ということになるでしょうか。
最近では、複雑なニーズを抱える人々に対して、医療の枠組みを超え、地域社会の資源を活用して支援する「社会的処方」という需要も高まりつつあります。この道案内役としても、リンクワーカーが必要とされています。
国内の取り組み
いくつかの自治体でリンクワーカーを導入されている事例があるようです。ウェブサイトからいくつか拾い上げてみました。
長崎県佐世保市の医療法人社団の取り組み
兵庫県養父市のリンクワーカー養成研修
株式会社NTTデータ経営研究所のレポート
将来的な社会的処方の実装に向けた官民協働サービスモデルの可能性
これらは国内での先進的な試みかと思います。
エビデンスはまだ不十分
社会的処方リンクワーカーは英国を中心に広く展開されているそうですが、リンクワーカー導入による具体的な効果については、世界的にもまだ十分に検証されていません。
国内では2020年に社会的処方についての系統的レビュー(西岡, 2019)が発表されています。リンクワーカーについては、ひとつのランダム化比較試験 (Grant, 2000)が引用されており、下記のような記述があるのみです。
Grantら(2000)はランダム化比較試験の手法を用いて、リンクワーカー(研究当時はまだ英国内で社会的処方の概念はなく、現在のリンクワーカーに相当する人材)に紹介された患者群での不安抑うつ尺度(HADS)の改善があったことを報告していた。
2022年に系統的レビューが発表
2022年10月、社会的処方リンクワーカーの効果とコストに関する国際的な研究をまとめた系統的レビュー (Kiely, 2022)が発表されました。
プライマリ・ケアを受けている成人の地域住民に対して、社会的処方リンクワーカーが関わることによって、健康関連QoL、メンタルヘルスの尺度は改善するのかを検討した、ランダム化比較試験または非ランダム化比較試験を検討した系統的レビューです。
リンクワーカーの要件
本研究で定めた社会的処方リンクワーカーの要件は以下の通りです。
プライマリ・ケア診療所・コミュニティ・ボランティア組織のいずれかに所属するリンクワーカー(非医療者または社会的ケアの専門家)への紹介があること
参加者はリンクワーカーと少なくとも1回は対面すること
本人が関与することを望む健康と社会的ケアのサポートやコミュニティリソースの範囲を特定し、選択したサポートや活動に関与するためのサポートやフォローアップが提供されること
健康関連QoL・メンタルヘルスに効果なし
8件の研究(対照 6,500人)が採択基準に合致。バイアスリスクが低いランダム化比較試験が5件、バイアスリスクが高い前後比較研究が3件です。
健康関連QOLについては、4件の研究(対象 2186人)では効果なしと報告されました。
メンタルヘルスについても、4件の研究(対象 1924人)のうち3件では効果なしと報告されました。
社会的処方リンクワーカーに関する有効なエビデンスは乏しいため、政策立案者はこのことに留意し、本格的な導入前に現行のプログラムの評価を優先すべきでしょう、と結論づけています。
ここまでをまとめます。
社会的処方リンクワーカーのエビデンス
リンクワーカーの定義があまり定まっておらず、研究の質も低い
健康関連QoLについては、効果がみられた研究はない
メンタルヘルス尺度については、効果がみられた研究もあるが少ない
本格的な導入の段階にはなく、さらなる効果の検証が必要
参考文献
ソトコトオンライン. 地域コミュニティと医療を繋げる仕事「リンクワーカー」を知っていますか? (2021-07-19)
https://sotokoto-online.jp/work/1906
養老市 健康福祉部 社会的処方推進室. リンクワーカーについて (2023-06-02)
https://www.city.yabu.hyogo.jp/soshiki/kenkofukushi/shakai_shoho/link-worker/index.html
西口 周. 将来的な社会的処方の実装に向けた官民協働サービスモデルの可能性. 株式会社NTTデータ経営研究所. (2023-04-17)
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/2023/230417_01/
西岡 大輔, 近藤 尚己. 社会的処方の事例と効果に関する文献レビュー. 医療と社会 2019; 29(4): 527-544.
Grant C, Goodenough T, Harvey I, Hine C. A randomised controlled trial and economic evaluation of a referrals facilitator between primary care and the voluntary sector. BMJ. 2000 Feb 12;320(7232):419-23. doi: 10.1136/bmj.320.7232.419. PMID: 10669447; PMCID: PMC27287.
Kiely B, Croke A, O'Shea M, Boland F, O'Shea E, Connolly D, Smith SM. Effect of social prescribing link workers on health outcomes and costs for adults in primary care and community settings: a systematic review. BMJ Open. 2022 Oct 17;12(10):e062951. doi: 10.1136/bmjopen-2022-062951. PMID: 36253037; PMCID: PMC9644316.
※情報収集・文章作成・画像生成にAIを活用しています。
■ 編集長
byc (bycomet) Editor, Director & Physician
2007年からブログやツイッターで活動を開始。ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」(2015-2023年、有料会員数10,886人月)、オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(2018-2022年、累積登録40人)を編集長として運営。2022年にはオンラインプラットフォーム「小さな医療」を開設。現在、登録会員数120人。
地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。
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あとがき
医療と地域社会をつないでいこう、という理念の「社会的処方」。
つなげていこうとするなら、医療用語である「処方」というコトバを避けるべきではないかと常々思います。
この言葉遣いからは、医療者の過度な正義感、奢りのようなものが潜んでいると感じます。
あえて医療が介入しなければならないのでしょうか?
コロナ禍でも経験したように、医療を社会へ拡張(それとも侵略?)する動きは、それ相当の科学的根拠がない限り、実践を正当化できないように思えます。
いかがでしょうか?
byc