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健康診断とがん検診の寿命延長効果:期待と現実のギャップ

小さな医療への挑戦 -4-

2023年9月、厚生労働省は健康診断を見直すことを発表しました。
健康診断では、総死亡・がんや心血管疾患による死亡は減少しないことが明らかとなっています。さらに、がん検診についても総死亡は減少せず、寿命延長効果はほとんどない、という科学的根拠が示されています。
この記事では、健康診断・がん検診の効果に関する最近の研究結果を紹介します。

Summary In September 2023, the Ministry of Health, Labor and Welfare (MHLW) announced that it will review periodic health examinations. It has been shown that health screening does not reduce total mortality or death from cancer or cardiovascular disease. Scientific evidence also indicates that cancer screening does not reduce total mortality and has little effect on life expectancy extension. This article presents the results of recent studies on the effects of health screening and cancer screening.

「早期発見、早期治療」という迷信

病気は「早期発見、早期治療」がいいのでしょうか?
長らく親しまれてきたこのスローガンには、科学的根拠がなかったことがわかってきています。

2023年9月、厚生労働省は働く人が会社で受ける健康診断の内容を見直すことを発表しました。
これを契機に、健康診断とがん検診の効果について、あらためて最近の研究結果を確認しておきましょう。

健康診断に関する研究

検査でどんな目的を達したのか

健康診断とはがんや心血管疾患による死亡、さらにはあらゆる原因による総死亡を少なくすることを目的として行われています。健康診断でこの目的が達成されるのかを検証した研究は多数あります。

ここで検証したいのは「病気が発見できるかではない」ことに注意が必要です。

検査を行えば、病気が多く発見できることは言うまでもありません。
その上でぼくらが知りたいのは、「病気が多く発見された結果、死亡が予防できたのか?」という健康診断の本来の目的が達成できたのか、という点です。

25万人のデータから「効果なし」

2019年1月、健康診断の効果を検証したメタ分析(Krogsbøll, 2019)が発表されました。

健康な成人(65歳以上のみの研究は除外されています)が健康診断を受けると、受けない人に比べて総死亡や疾患特異的死亡が少なくなるか、を検討したランダム化比較試験のメタ分析です。

研究の質が高い17研究(251,891人)が採択されました。
健康診断による総死亡のリスク比は1.00(95%信頼区間 0.97, 1.03)と健康診断なしと同等でした。
さらに、がん死亡・心血管疾患死亡についても、ほぼ同等という結果でした。

Table by Krogsbøll, 結果を抜粋して作図

主に65歳未満の健康な成人が健康診断を受けても、がん死亡・心血管疾患死亡ばかりではなく、総死亡の予防にもならなかったことが確認されました。
さらに、冠動脈疾患や脳卒中の発症についても予防にはならないという結果となっています。

著者らは、今後は健康診断の害についても検討したほうがよい、と主張しています。

がん検診に関する研究

寿命延長効果をメタ分析で検証

がん検診は寿命を伸ばすことを目的に実施されてきましたが、どの程度寿命延長効果があるのか、はっきりしていませんでした。

そこで、長期間追跡されたランダム化比較試験の結果を統合したメタ分析(Bretthauer, 2023)が実施されています。

がん検診による獲得生存日数を検討

対象となった検診は以下のとおり。

  • マンモグラフィーによる乳がん検診

  • 便潜血・S状結腸鏡・大腸内視鏡による大腸がん検診

  • PSAによる前立腺がん検診

  • 喫煙者/元喫煙者に対するCTによる肺がん検診

  • 子宮頸部細胞診による子宮頸がん検診

これらのがん検診の実施によって得られた生存日数を、がん検診を実施しなかった人と比べて算出し、結果を統合しています。

211万人のデータから「効果なし」

メタ分析には18研究、211万人に及ぶデータが使用されました。

結果として、いずれのがん検診においても寿命延長効果はほとんど認められませんでした。

結果の概要を図に示します。

Table by Bretthauer, 結果から作図。PLCO研究(Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial)とは、米国の前立腺がん・肺がん・大腸がん・卵巣がん検診の有効性を検証したランダム化比較試験(Pinsky, 2019)の結果から引用されています。

単独のがん検診で獲得生存日数で有意差が認められたのは、S状結腸鏡検査のみ (獲得生存日数110日、95%信頼区間 0-274日)ですが、わずかに統計学的有意差が出たのみです。

その他のがん検診については、検診なしと同等という結果でした。

一般的ながん検診によって寿命・生存日数を伸ばすという主張には科学的根拠がない、という結論になっています。

健康診断・がん健診のエビデンス

  • 健康な成人が健康診断を受けても、がん・心血管疾患死亡、総死亡の予防にはつながらない

  • がん検診を受けても、総死亡の予防や生存日数延長にはつながらない


検査依存への見直しは急務

「早期発見、早期治療」を呼びかけてきた健康診断やがん検診には、少なくとも死亡を予防する効果がなかったことが明らかです。

健康診断・がん検診の有用性を完全に否定するものではありませんが、検査を強要したり、検診受診率を競ったりするような行為は、科学的姿勢とはいえません。
検査に過度な期待を寄せず、現実を見つめ直す必要があるでしょう。

これらの研究結果も踏まえ、現在広く実施されている健康診断の有用性について、厚生労働省にはしっかり再評価していただくことを期待します。

小さな医療

  • 健康診断・がん検診を強要しない

  • 検診受診率を競わない

  • 健康診断の再評価と見直しは急務

参考文献

Krogsbøll LT, Jørgensen KJ, Gøtzsche PC. General health checks in adults for reducing morbidity and mortality from disease. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan 31;1:CD009009. doi: 10.1002/14651858.CD009009.pub3. Review. PubMed PMID: 30699470; PubMed Central PMCID: PMC6353639.

Bretthauer M, Wieszczy P, Løberg M, Kaminski MF, Werner TF, Helsingen LM, Mori Y, Holme Ø, Adami HO, Kalager M. Estimated Lifetime Gained With Cancer Screening Tests: A Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Intern Med. 2023 Aug 28:e233798. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.3798. Epub ahead of print. PMID: 37639247; PMCID: PMC10463170.

※情報収集・文章作成・画像生成にAIを活用しています。

■ 編集長
byc (bycomet) Editor, Director & Physician
2007年からブログやツイッターで活動を開始。ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」(2015-2023年、有料会員数10,886人月)、オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(2018-2022年、累積登録40人)を編集長として運営。2022年にはオンラインプラットフォーム「小さな医療」を開設。現在、登録会員数120人。
地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。

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あとがき

検診受診率向上の告知を見るたびに、不愉快な気分になります。
一体、何を目的に検査を強要しているのでしょうか?

医療者は健康診断やがん検診の効果をわかってやっているのでしょうか?
それとも本当に知らないのでしょうか?
ぼくの素朴な疑問です。

少なくとも2012年には指摘されたこと。
健康診断見直しが始まるまで、10年以上が経過しています。

明確なエビデンスが出ていても、いつまでも医療が変わらない、変えられないということはよく経験します。
科学的根拠のない医療行為は、科学と似て非なるもの。
疑似科学と言えるのではないでしょうか。

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